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『まだまだ暑い日が続くね。』といつもの常連さんと二人、話しながら同じウイスキーのソーダ割りを飲んでいた。そろそろ、閉店時間も近くなっていた。

「こんばんは!まだいいですか?」の声と同時に扉が開き一人の女性が入って来た。
『いらっしゃいませ!まだいいですよ!』と返事をし、カウンターの真ん中の席へ案内した。
『今、終わったの?』
「はい!今終わって・・・。マスターにプレゼントを持って来ました。」
『プレゼント?』
「20周年おめでとうございます!はい、これ・・・。」
『そんなに、気を使わなくてもいいのに・・・。』
「開けて見て下さい。あっ!その前に何か作ってもらおうかなぁ・・・。」
『そうですね。では、お任せでいいですか?』
「はい、楽しみ・・・。何が出てくるか・・・。」
この女性は、昔からお世話になっている同業で高校の後輩のKちゃんである。
彼女は、大の猫好きで、お店にはたくさんの猫の置物がバカラなどの高級グラスと一緒に置いてある素敵なお店のママである。

冷蔵庫からトムジンを出し、シェーカーに入れ、レモンジュースとシュガーシロップを加える。氷を入れて、シェイキングし、背の高いコリンズグラスに注いで、ソーダを加えて軽くステアする。レモンスライスとチェリーを飾れば出来上がりだ。
『はい!どうぞ!“トム・コリンズ”です。2杯作ったので、一緒に乾杯しましょう。』
「乾杯!おめでとうございます。」
『ありがとうございます。』
「トム・コリンズ? さっぱりしてて、美味しい・・・。」
『でしょ・・・。』
「どうしてこれを・・・?」
『このカクテルのベースは、トム・ジンという物で普通のジンに少し甘みをつけてあるんですよ。トムとは、トムキャットで猫のことなんです。ラベルにも猫の絵が描いてあるでしょう。』
「ホント!私が猫好きだからですね。」
『はい、そうです。』
と話しが弾んでる時に、常連さんからお代わりの催促があった。

『氷を鳴らさなくても、分かりますよ!』
「ほんと?気付いてないんじゃないかと思って・・・。」
『で、同じのでいいの?』
「いや、マスター!僕にも“トム・コリンズ”をちょうだい!」
『珍しいね。違うのを飲むなんて・・・。』
「実はね。猫を飼ってたんですよ!」
『それは、初耳だね。』とやり取りしながら、いつもの常連さんに、初めてカクテルを出した。そして、カウンターの真ん中へ戻った。

「マスター。開けて見て下さい。」
『そうですね。忘れるところでしたよ。』と奇麗にラッピングされた箱を開けた。
そこには、水彩画で描かれ、額に入れられた僕の自画像が入っていた。
『すごいですね。自分の自画像をいただくなんて・・・。』
「知り合いの画家に描いてもらいました。」
『よく特徴をとらえてますね。20年の歴史ですね。ほんと、ありがとうございます。』
「いいえ。喜んでもらえて嬉しいです。」
『絵は、大事にお店に飾らせていただきます。』
「あら、もう2時を回りましたね。帰らなくては・・・。」
『わざわざ、ありがとうございます。』
「トム・コリンズでしたっけ・・・。美味しかったです。次回からは、ウイスキーの前にこれをいただくことにします。」
『かしこまりました。』と店の外までお見送りをして、カウンターの中に戻った。いつもの常連さんが何か言いたそうな顔をしてた。

「ねぇ、マスター聞いてくれる?」
『手短にね・・・。閉店時間過ぎてるから。』
「分かってますよ。それがね飼ってた黒猫が居なくなったんですよ・・・。」
『猫にも逃げられたんですか。』
「そんなに言わなくても・・・。猫の話しを聞いて思い出しただけです。」
『きっと、いい彼でもできたんだよ。』
「そのうち、戻って来るだろうと待ってるけどね。」
『あなたも早く彼女を見つけないと・・・。』
「わ、分かってますよ。もう・・・。」

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『毎日暑い日が続くね。』
「ほんと、うだる様な暑さは嫌だよね・・・。」と、ウイスキーのソーダ割りをいつもの常連さんと一緒に飲みながら、あまり意味も無い話しをしていた。
JAZZのBGMも心地よく聞こえ、静かなBARの空気が流れていた。
『お代わりは・・・?』と声を掛けた時、勢いよく扉が開いた。

『いらっしゃいませ!』
「マスター!久しぶり!」と元気よく、一人の男性が入ってきた。
「移転したの知らなくて、探したよ・・・。」と言いながら、常連さんとは反対のカウンター角の席に座られた。
『もう10年目ですよ。』
「そう、と言うことは、10年以上は経つのか・・・。」
『そうですね。で、何にしましょう?』
「?.Y.Z (エックス、ワイ、ジィ) !俺は、これしか飲んだことがないから…。」
『そうでしたね。いつも、これでしたね。』
と返し、冷凍庫からホワイトラムを、バック棚からコアントローを、冷蔵庫からレモンジュースを出し、カウンターの上に並べた。
シェーカーにその材料を入れ、氷を加えてすばやくシェイクし、冷えたカクテルグラスに注ぎ、その男性の前のコースターの上にそっと運んだ。

「久しぶりに飲むよ。X.Y.Z・・・。」
と言った後、さっきまで元気だった男性から声がしなくなった。そして、しばらくカクテルを見つめた後、一気に飲み干した。

「マスター!もう一杯!」
『は、はい!』
2杯目の“X.Y.Z”を運び、空のグラスを下げたのと同時に声が聞こえた。
「マスター・・・。あの頃は楽しかったよ。このカクテルも彼女に教えてもらったし・・・。」
『そうですね。素敵な女性でしたね。』
「マスターも、そう思っていたの?」
『はい・・・。あの頃は楽しみでしたよ。お二人がお見えになるのが・・・。』
と会話を交わした後、また、その男性から声が消え、静かなBARに戻った。
JBLからは、“レフトアローン”のサックスの音が響き、カウンターの端から氷の鳴る音が聞こえた。
『お代わりでしたね・・・』
「気付くのが遅いよ・・・。」
『氷の音がうるさいなと思ってましたよ・・・。』と交わしてすぐに、その男性の方へ戻った。

確か12年ぐらい前になるだろうか。よく二人でお見えになっていた。誰が見ても素敵なカップルで、間違いなく、二人は結婚されるだろうと思っていた。

「マスター!もう1杯、お代わり!これで最後にするから・・・。」
『はい。かしこまりました・・・。そのカクテルと同じですね・・・。』
「えぇ!同じ・・・。」
『アルファベットの最後の3文字ですから・・・。もう、この後は無いということですね。』と話し、3杯目のX.Y.Zをお出しした。
「そういう意味があったの?それを知ってて、俺に・・・。」
『おそらく、ご存知だったんでしょう。でも、本来は“究極のカクテル”という意味なんですよ。』
「究極・・・?。」
『そう、お二人にとっては、これ以上のものはない女性だったし、男性だったんですよ。その意味もご存知だったんでしょう。きっと・・・。』

「そうだね、確かに究極の彼女だったよ・・・。でも、今は結婚して幸せになってるみたいだから・・・。これで、よかったんだと思う。」
『そうですね・・・。』

「マスター!ありがとう!何か吹っ切れたよ!また、寄らせてもらうよ。場所も分かったことだし・・・。」と言って、3杯目も一気に飲み干した。
『ありがとうございます。』と扉を開けた時に、小さな声で言葉を掛けられた。

扉を閉め、カウンターの中に戻り、いつもの常連さんの前に立った。
「マスター!究極の女性でも一緒になれないことがあるんだね・・・。」
『だから、忘れられないんですよ・・・。』
「ねぇ、扉のとこで何を話してたの彼は・・・。」
『聞きたい?』
「ちょっと、気になるけど・・・」
『“X.Y.Zだけは、あの頃の味のままだったよ”って・・・。』
「・・・。お代わりようだい!」
『まだ飲むの・・・。』

キールロワイヤル写真.jpg
うっとうしい梅雨があけ、7月になった。
今日は、珍しく7時の開店とほぼ同時に、お客様が入り、いつの間にかカウンター9席しかない、小さな店が満席になった。やっと9時近くになり、その忙しさから開放され、さっきまで賑やかさでほとんど聞こえていなかったBGMがはっきりと聞こえ、いつもの空気に戻っていった。
残された洗い物を片付けながら、そろそろいつもの常連さんがお見えになるころだと考えていた。

『いらっしゃい!やっぱりこの時間だね。さっきまで、忙しくてね。席が空かなかったらどうしようと思ってましたよ。』
「へぇ・・・。珍しいね。この店は僕でもってると思ってたのに・・・。」
『あなただけだったら、20年も続いてないよ・・・。』
『ところで、いつもので?』
「はい、はい。」
洗ったばかりのグラスに氷を入れ、ウイスキーを注いで、ソーダを加え軽くステアし、常連さんのコースターの上に運んだ。

『そうそう、今日は7月7日、七夕だよ。願い事・・・、書いてないよね。』
「書いたことがないよ!」
『だと思って、行きつけの喫茶店に七夕飾りが準備してあったから、あなたの分も書いときましたよ。』
「何て書いたの?」
『決まってるでしょう。“今年こそ彼女ができますように・・・。”って』
「余計なお世話だよ。」
と、常連さんとやり取りをしてる時に、扉の開く音がした。
珍しく女性一人のお客様である。それも、目の覚めるよう美しい女性だ。

『いらっしゃいませ!ど、どうぞこちらへ』とご案内し、オシボリを渡し、コースターをその女性の前に置いた。
「一年ぶりぐらいかしら・・・。一人ではなかなか来れなくて・・・。」
『そういえば、昨年もお一人で・・・。覚えていますよ。ちょうど七夕でしたからね。』
「そうですね。」
『で、何になさいますか?』
「シャンパンが好きなんですけど・・・。」
『かしこまりました。』
と答え、冷蔵庫から冷えたシャンパンとカシスのリキュールを出し、シャンパンを音がたたないようにゆっくりと開けた。
背の高いシャンパングラスをカウンターの上に置き、カシスを少し入れ、シャンパンを静かに注いで、軽くステアしたら出来上がりだ。
シャンパンの無数の泡は切れることも無く立ち上る。まるで七夕の夜空の“天の川”みたいだ。
それにカシスでちょっと甘さと色を付けたこのカクテルは女性に人気である。

『はい!どうぞ。キールロワイヤルです。』
と言って、女性のコースターの上に静かに運んだ。
「うん!美味しい!それに、この透き通った赤い色も素敵ですね。」
と微笑み、立ち上る泡を見つめていた。

1年ぶりの魅力的な女性のご来店で、常連さんのことをすっかり忘れていた。
「マスター!」と言う男性の声にドキッとして常連さんの方へ顔を向けた。
「お代わり!とっくに空になってるのに気付いてくれないんだから・・・。」
『すみません。居るのを忘れてました・・・。』
「もう!どうでもいいけどさ・・・。」と言った後は小声に変わって、話しが続いた。
「と、ところで、すごく奇麗な人だね。何か、一目惚れしそうだよ!願い事が叶いそうな気がする・・・。」
『それは無いよ・・・。』と同じように小声で返し、その女性の方へ身体を向けた。

「マスター!美味しかったです。また、来年の七夕に・・・。」
『ありがとうございます。お待ちいたしております。』と伝え、扉の外まで見送った。

またしても、いつもの常連さんと二人になってしまった。
「マスター!」
『はい!お代わりでしょう!』
「お代わりもだけど、さっきの女性、紹介してよ!」
『それが、名前も何も聞いてないから、分かりませんよ!分かってても、紹介出来るわけないでしょう!』
「そこを、なんとか・・・。」
『だめです。今日だけの“たなぼた”だと思って下さい。』
「えっ!“七夕”じゃ無くて、“タナボタ”ですか!」
『でしょ・・・。』

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『いらっしゃいませ!』と扉の開く音に反応し、声を入り口の方へ向かって投げかけた。
雨に頭と肩を濡らしたいつもの常連さんが、めずらしく女性と二人である。
『朝からずっと降ってるね・・・。』と声をかけ、いつもの席に案内した。
そして、女性の方には『初めまして・・・。』と挨拶をした。
「マスター!今日は、ひとりじゃないですよ!」
『まさか!彼女・・・?』
「だったら、いいけどね。今年入社の後輩で、彼女が帰る前にカクテルを飲みたいって言うもんだから・・・。」
『それは、どうもありがとうございます。』
「で、僕はいつもの! 彼女には、美味しいカクテルをお願いします!」
『はい!かしこまりました。』と返し、バック棚からいつものウイスキーをつかみ、二人のいるカウンターの上に置いた。そして、グラスに大きな氷を2個入れ、ウイスキーをそっと注ぎソーダを加えて、軽くステアし、いつもの常連さんのコースターの上に運んだ。
さて、カクテルは何をお出ししようかと考えていた時に、「マスター。」と小さな、可愛い声が聞こえた。
「私、雨女ってよく言われるんです。入社した日も、今日も雨・・・。でも、嫌いじゃないんですよ。今日みたいな雨は・・・。」とまだ少し濡れているストレートの髪を触りながら話しかけていた。
「マスター!雨の似合う女性のイメージで・・・。」と、いつもの常連さんの声が会話を遮り『わかってますよ!』と答えて、女性の方へ視線を移した後、冷凍庫からウオッカを、バック棚からバイオレットのリキュール(パルフェ・タムール)とブルーキュラソーを取り出し、絞りたてのグレープフルーツ・ジュースを冷蔵庫から出してカウンターの上に並べた。
シェーカーにその材料を入れ氷を加えて、振った。
静かな店内に透き通るようなシェイキングの音が響き、最もBARらしい空気に満ちた瞬間である。
シェーカーからカクテルグラスに注ぎ入れ、ブルーキュラソーをドロップして完成である。そのカクテルをゆっくりと女性のコースターの上に運んだ。
『はい。お待たせしました。どうぞ!』
「へぇ・・・。マスター、シェーカー振れるんだね!」
『当たり前です!』
と、いつもの常連さんとやり取りしてる間に、カクテルを一口すする音がした。

「美味しいです。それとこの色が好きです。」の後に少し間をおいて、「名前はなんですか?」と聞かれた。
『名前ですか?そうですね・・・。』と考える間もなく、「私が付けてもいいですか?」と、また、小さい声が返ってきた。
『どうぞ、お好きな名前を付けて下さい。』と話しかけた。女性は、カクテルグラスを持ち上げ、また一口飲み、こっちを向いた。

「あのぅ、“雨の物語”にしたいですけど、いいですか?」
『雨の物語ですか・・・。いいですね。それにしましょう。で、どうしてその名前なんですか?』
「実は・・・。私の母も雨が好きで、似てるんです。雨の日に出会って、雨の日に別れが来て・・・。よく聞かされてました。母の恋愛の話を・・・。」
『そうですか・・・。誰にも“物語”はあるものです。』
と答えた後、しばらくの間、静かな空気に包まれ、ふと昔を思い出していた。

確か、私にも似たようなことがあった。もう28年ぐらい前だろうか・・・。
付き合ってた女性から突然別れようと言われた日も、今日みたいな雨が降っていたような気がする。
その翌年に結婚したという噂が風の便りのごとく耳に入った。子供がいるとしたら、ちょうど、この女性ぐらいだろうか・・・。
と昔に浸っていたその時、現実に引き戻すような氷のなる音が聞こえた。

『お、お代わりは・・・?』
「いや、いいよ。彼女、帰る時間だし・・・。」
「美味しいカクテル、ありがとうございました。“雨の物語”母にも伝えときます。」
『・・・。よろしくお伝えください。ありがとうございます。』
『ちゃんとタクシーに乗せてあげて下さい!』といつもの常連さんに伝えた。
扉のしまる音がし、誰もいない静かな時間が訪れた。空のグラスを片付けながら、またあの頃の情景がよみがえろうとしていた、その時、扉が開いた。

「マスター!送ってきたよ!」
『も、戻ってきたんですか!』
「だって、マスター、何か寂しそうな顔してたし・・・。」
『そんなことないですよ・・・。偶然です。偶然・・・。』
「何が偶然なの?」
『何でもないです!ところで、これから私に付き合って下さい!』
「マスターに・・・。」
『歌いに行きますよ!歌いに・・・。』
「カ、カラオケ!ですか? 何、歌うんですか?」
『決まってるでしょ!“雨の物語”イルカの歌ですよ!』
「えぇー、僕、そんな世代じゃないけど・・・。」

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夜の12時を回った。カウンターに残っているのは、いつもの常連さんだけである。
相変わらず同じ物を飲み、いつもと同じ席で、いつものように一人である。
『ねぇ、たまには違う物を飲んでみたら?』
「えぇ・・・。」「マスターが、これしかつくってくれないんじゃないですか!」
と、いつもの常連さんと言い合っている時に、扉が開いた。

『いらっしゃいませ!』
「まだ、いいですか?二人ですけど・・・。」
『どうぞ、どうぞ。お好きなところへ・・・。』
40代前半位の男と、その後ろから女性も一緒に入ってきた。女性は20代半ばぐらいに見える。髪は琥珀色に染め、指先は赤い色に塗られている。

『で、何にいたしましょう?』
「僕は、ジントニック。彼女には、“レインボー”をお願いします。」
『れ、レインボーですか? かしこまりました。』
と答え、男性のジントニックと先ほどから氷の音で催促している常連さんのウイスキーのソーダ割りもいっしょに作り、その男性のコースターの上と、カウンター角に陣取っている彼のグラスを引き、差し替えた。

「なんで、分かったの?」
『氷の音がうるさいからね・・・。それから、しばらく、私に話しかけないで下さい。ちょっと集中しないといけないから!』
「わ、分かりましたよ。」

さて、久しぶりにレインボーの注文だ。このカクテルは、プース・カフェ・スタイルといわれている物で、リキュールなどを比重の重たい物から順に積み上げてゆくカクテルである。7種類の色の物が“レインボー”と呼ばれている。このカクテルの難しいところは、同じ厚さに、混ざらないように静かにゆっくりと注がなくてはいけないことである。

バック棚から専用のグラスを取り出し、カウンターの上に置いた。そして、バースプーンを左手に背が上になるように持ち、グラスの内壁に傾けて付け、そこへ向かって少しずつボトルから垂らしてゆく。まずは、赤い色のシロップを一番下に、次に緑色のミントリキュール。紫色のバイオレットリキュール。透明なチェリーのリキュール(マラスキーノ)。青色のブルーキュラソー。薄い黄色のイエローシャルトリューズ。そして最後に、その女性の髪の色と同じ琥珀色のブランデーを積み上げたら出来上がりだ。

『はい。どうぞ。お待たせいたしました。』と出来上がったカクテルを女性の前のコースターの上に静かに下ろした。

「うわぁ!キレイ!いろんな色が入ってて、ホント、虹みたい・・・。」
「だろう!夜でも虹を見ることが出来るだろう。」
「本物より色がはっきり分かれてて、なんか飲むのがもったいないみたい・・・。」
『キレイでしょう。本物の虹は何時見られるか分からないし、いつの間にか消えてしまいますからね。』
『ストローを添えていますので、お好きな色のところに刺して飲んでください。』
『でも、しばらくは、見て楽しんだほうが・・・。』
と言いながら、男性のコースターの上に新しいジントニックを運んだ後、一人寂しそうにしている常連さんのほうに身体を向けた。

「マスター!すごいね!ソーダ割りしか作れないと思っていたよ!」
『失礼な!これでも、プロのバーテンダーですからね・・・。』
「今度、ぼくも頼もうかなぁ・・・。」
『だめです!あなたには似合いませんよ!』
「そんなぁ・・・。ところで、もう一杯お代わり!」
『最後の一杯ですよ!』と、いつもの常連さんのウイスキーのソーダ割りを作り、空のグラスと差し替えた。その時男性から声がかけられた。

「マスター。ご馳走様でした。彼女も満足したみたいです。夜の虹が見れて・・・。」
『ありがとうございました。またご来店下さい。』と挨拶を交わし、扉の外まで見送り、カウンターの中に戻った。
そして、氷だけになったグラスと、七色がキレイに積み上げられていたグラスを片付けた。

「また、一人になったか・・・。」とカウンターの角から声がした。
『もう、お代わりは、だめですよ!』
「分かってますよ!」
「今日はキレイな“虹”を見させてもらったし、その虹も消えたことだし帰るとしますか・・・。」
『当たり前です!当店の営業時間は“二時”迄ですから!』
「に、“にじ”ですか・・・。」