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ハイボール“ぷらざ12月号”

ハイボール写真.JPG
『12月になったね』
「ホント。一年、あっというまだったなぁ…。マスターには、いつもお相手をしていただき、ありがとうございました。」
『何を、かしこまってるんですか!』
いつもの常連さんは、いつも決まってカウンター角の席だ。そして、いつものウイスキーのソーダ割りを飲みながら、今年一年を振り返っていた。
「マスター!」
『どうしたんですか!急におきな声で…。』
「来年こそは、彼女を見付けますよ!それと、ウイスキーのソーダ割りから卒業して、カクテルにするから…。」
『まだ、今年も半月は残っているし、クリスマスというイベントもあるのに、もう来年のことですか!』と常連さんに返した時、扉が開いた。

『いらっしゃいませ!』と入口のほうへ声を掛け、一人の男性が入ってきた。団塊の世代だろうか、白髪交じりにメガネを掛けた素敵な紳士のように見える。
「いい感じの店だね。」
『あ、ありがとうございます。で、何にいたしましょうか?』
「そうだな・・・。“ハイボール”を一杯作ってくれ。」
『はい。ウイスキーは何にしましょう?』
「任せるよ!」
『かしこまりました。』と返事をし、バック棚を眺めながら考えた。

“ハイボール”か、久しぶりに聞いたような気がする。昭和30年代から40年代“トリスバー”や“サントリーバー”が全盛だった頃、ハイボールもその時代によく飲まれていたもので、ウイスキーのソーダ割りのことである。
正確には、炭酸じゃなくても、ジンジャーエールやトニックウォーターなどの炭酸飲料で割ってもハイボールなのだが、一般的にはソーダ割りのことさす言葉である。炭酸の泡が立ち上るところから名前が付いたとか。また、一説には、ゴルフ用語のハイ・ボール(高い玉)から付いたとか言われている。

さて、ウイスキーは、やっぱりこれだ。棚から角瓶を取り、冷していたグラスに大き目の氷を二つ入れ、ウイスキーを注ぎ、ソーダを満たして軽くステアする。
『はい!どうぞ!ハイボールでございます。』と、その男性のコースターの上に静かに運んだ。
「おう、出来たか・・・。」と声を出し、一口、喉に流し込んだ。
「美味い!角のハイボールか・・・。懐かしい味だ!」
『気に入っていただけたようで・・・。』
「しかし、角瓶で作るとはニクイネ。昔を思い出すよ・・・。」
『いい時代だったと思いますよ。活気に満ち溢れていた頃ですよね・・・。』
「その通りだよ。俺も若かったし、よくバーでこれを飲みながら女性を口説いてたもんだ。」
と笑いながら話しかけてきた。そして、店の中を見わたしながら、時おりハイボールを口にし、ひとりうなずいていた。
「マスター。もう一杯同じのをくれ。」とグラスが空になるのと同時に声がした。
『かしこまりました。』と返事を返し、二杯目のハイボールを作って、氷だけになったグラスと差し代えた。
「ありがとう。」と言った後に、二杯目を一気に飲み干した。
「これで帰るよ。マスター。」
『あ、ありがとうございます。』
「実は、娘に聞いてきたんだよ。一度行ってみたらというもんでね。」
『そうですか…。』
「いい店だ。今度、クリスマスにでも、家内とおじゃまするよ。」
『は、はい。お待ちいたしております。』と扉の外まで見送りをした。

カウンターの中に戻り、いつもの常連さんのことを忘れていたのに気付いた。とっくに空になっていたグラスも、氷も解けてしまっていた。
『すみませんね。今日はあまり相手できなくて…。』
「いいですよ。慣れてるし、でも、いまの男性の若い頃が羨ましいよね。」
『そうだね。今のあなたに似ているかも…。』
「ぼ、僕にですか…。」
『すぐに、女性を口説きたくなるところとか…。それに、飲んでいる物まで…。』
「えぇ。飲み物まで!僕はウイスキーのソーダ割りですよ。」
『同じなんですよ。ハイボールというカクテルは、ウイスキーのソーダ割りのことなんです。』
「そ、そうなの、何で、もっと早く教えてくれないんですか!カッコいい名前があったじゃないですか!」
『世代が違うしね…。』
「そんなの関係ないですよ!」
『はい、はい!わかりましたよ。』
「来年から、そのカクテルにしますからね。ちょっと、聞いてるの・・・。」
『・・・。』
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