今日はなんだか落ち着かない。そう、皆様もお気づきでしょう。いつもの常連さんが彼女を連れて来る日なのです。
『ありがとうございました。』とお客様を見送り、誰もいなくなった店内に戻った。洗い物を下げて、カウンターの中に入った。時計は9時半を回ったところだ。そろそろかと深く呼吸をした時に、扉が開く音がした。
『いらっしゃいませ!』とその音の方へ声をかけた。
「マスター!こんばんは!」といつもの常連さんが元気よく現れ、その後に女性が「こんばんは・・・。」と小さい声を出して入って来た。
『初めまして・・・。』といつもの常連さんの隣に座られた女性に挨拶をした。
『この日をお待ちしてましたよ。』
「初めまして。マスターの事は色々と聞いています。」
『そ、そうですか。で、お飲み物はどうしましょう?』と二人に声をかけた。
「マスター!シャンパンを・・・。」と常連さんが声をかけ、目で合図も送って来た。
『はい。』と返事をし、あのグラスと常連さんのグラスをカウンターの上に並べた。冷蔵庫から冷えたシャンパンを出し、針金を緩め、音がしないように丁寧にコルクの栓を開けた。そして、静かにグラスに注ぎ、二人のコースターの上に運んだ。
「マスターもどうぞ!」と常連さんから声がした。
『ありがとうございます。』と答えてグラスにシャンパンを注いだ。
「それでは、乾杯しましょう。マスター!ひと言、お願いします。」
『では、お二人が結婚できますように!』
「な、何を言い出すんですか。まだ、そんな、今からなんですよ。もう・・・。」と少し慌てながらも嬉しそうな顔がそこにあった。
『はい。では、“カンパイ!”』
「かんぱ〜い!」と上機嫌の常連さんに続いて「カンパイ!」と声が聞こえ、グラスの“カチッ”とあたる音がした。
「美味しい! シャンパンは、最高だね!」と常連さんから声がした後、しばらく二人の前から外れ、洗い物のグラスを吹き上げた。そして、シャンパンが空になるのと同時に声をかけた。
『そうそう、そのグラス、お預かりしていた物です。名前と同じイニシャル“M”が刻まれていますよ。』と女性に言った。
「あっ!」「ありがとう!」と女性は常連さんの方へ顔を向け、また声がした。
「あら?あなたのグラスには、“H”が・・・。」
「えっ!あっ、ホントだ!」
『気付いてくれましたね。』
「これって、僕の名前?」
『そうです。彼女と同じグラスに刻んでもらいました。私からのプレゼントです。』
「ありがとうございます!」
『ところで、お代わりはどうしましょう?』
「僕は、やっぱり、ハイボール!」
「私は・・・。」
『あっ。Mさんには、私からカクテルをプレゼントしますよ。』
と返事をし、バック棚を見渡し、ハイボール用のウイスキーとコアントローを取り出し、冷凍庫からウオッカを冷蔵庫からクランベリージュースを出してカウンターの上に置いた。そして、ライムを搾りその横に並べた。
シェーカーを取り、材料を入れて準備をした。先に常連さんのハイボールをつくってコースターの上に運んだ。そして、冷やしておいたカクテルグラスを出し、シェーカーに氷を入れて素早くシェイクし、グラスに静かに注いだ。
『はい。どうぞ。』と彼女のコースターの上へ運んだ。
「奇麗な色ですね。さっぱりしてて、美味しい。名前は何ですか?」
『“コスモポリタン”というカクテルです。』
「あっ!これ、飲みたかったんですよ。アメリカのドラマの中に出て来たのを憶えています。」
「へぇ〜、有名なんだ・・・。」と常連さんの声がした。
『世界的に有名なカクテルなんですよ。』
「ですよね。」と今度は女性から声がした。
『Mさんが、お仕事でいろんな国へ行かれていることを聞いていました。だから、なかなか会えないって・・・。コスモポリタンは、国際人という意味だそうです。』
「国際人ってほどじゃないんですけど、好きなんです。海外の仕事。」
「マスター!私、ここに来てよかったです。この店の良さが分かりました。“親父ギャグ”だけじゃなかったんですね。」
『えっ、そんな事を言ってたんですか!あなたは!』と常連さんに顔を向けた。
「スミマセン・・・。」と低い声が聞こえ、女性からまた声がした。
「暖かいですね。この店。彼が通うのがわかるような気がします。」
『そんな、たいしたことはないですよ。』
「私も、一人で来ようかなぁ・・・。」
「ダメダメ!僕と一緒です。」
『お互いのペースを崩さない程度がいいんですよ。それに、いつも一緒だと、私の居場所がないし・・・。』
「マスター!ホントは寂しいんでしょ!」
『ち、違いますよ!』
「二年間のマスターを見てたら分かります!」
『そろそろ、閉店の時間みたい・・・。』
「まだでしょ!」
二年間続いた連載も無事に終了しました。
次の予定は今のところは無いです。
連載した分と以前ホームページに書いていたコラムを含めて、本になる予定です。
詳しくは、ブログに書き込みたいと思っておりますので、楽しみにお待ち下さい。
二年間の購読ありがとうございました。
次の予定はないのですか?
執筆を待つファンより?!
取敢えず、お疲れ様。