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フローズン・ダイキリ“ぷらざ8月号”

フローズンダイキリ写真.JPG
「ねぇ。マスター。」と角の席から声がした。いつも常連さんが来たのは、店の開店とほぼ同時だった。1杯目のハイボールは、ビールのごとく喉に一気に流し込んでしまい、2杯目も半分ぐらい飲んだ後だった。
『はい、何でしょう?』
「最近、“ハイボール”が人気なんだって?」
『そうですよ。居酒屋ではジョッキで出してるぐらいですよ。』
「ここでも、よく出るの?」
『お陰様でね。毎日、よくつくってますよ。』
「僕のお陰だね・・・。」
『えっ、何か言った。』
「い、いや。何も・・・。ところで、今日は、暑かったですよね。」
『40度ぐらいあったらしいよ。』
と、ちょうど会話が終わった時に、扉が開いた。

『いらっしゃいませ!』と入口の方へ声をかけた。
「マスター。こんばんは!」とハモルように声を出しながら、三人の女性が入ってきた。
『おやおや、三人お揃いじゃないですか!お久しぶりです。』
と話しながら、席を案内し、オシボリをそれぞれにお出しした。
「マスター。三人で会うの、久しぶりなんですよ。」と三人の中の仕切り役の女性が話し、その後に続いてもう二人からも声がした。
「マスター。私は母が病気で中々出れないんです。でも、今日は、子供が見てくれるって言うから、やっと来れました!」
「私は、いつも仕事が終わるのが遅くて、でも、無理して合わせましたよ。ここに来るために!」
『ありがとうございます。三人揃うと、相変わらずパワーがあるね。ところで何にしましょうか?』
「さっきまで、ビアガーデンにいたんですよ。熱くて熱くて、何か冷たいのを下さい。」
「私たちも同じ物を!」と二人からも声がした。
『かしこまりました。』と返事をし、バック棚からホワイトラムとマラスキーノを取り出し、グレープフルーツとライムを搾り、カウンターの上に一緒に並べた。そして、ミキサーのカップを本体から外してその中に材料を三人分入れ、クラッシュアイスを加え、本体に戻して、スイッチを入れた。
店内には、モーターが回る機械音と一緒に氷の砕ける音が響いていた。
『ちょっと、うるさくてすみませんね』と三人の女性と常連さんに声をかけた。
スイッチを切り、ちょっと大き目のグラスを3つ並べ、そこに注ぎ分けて、ミントの葉とライムを飾り、ストローとスプーンを添えたら出来上がりだ。
『はい。どうぞ。“フローズン・ダイキリ”です。』と会釈しながら、三人のコースターの上に運んだ。
「うわぁ、カキ氷みたい!」「いただきます!」と三部合唱のように店内に声が響いた。
「美味しい、さっぱりしてて、何か体が気持ちいいね。」とその中の一人が声を出し、他の二人は、カクテルをすすりながら「うん、うん。」と頷いていた。
『暑かったでしょうから、フローズンにしましたよ。かの有名なヘミングウエイがこよなく愛したといわれているカクテルなんですよ。』と話しかけた。

三人の女性も、冷たいカクテルで少し落ち着いたのか、店内は、さっきまでとは違って静かになっていた。しばらくして仕切り役の女性が口を動かした。
「マスター。私たち三人、いつも同じなんですよ。前も話したかもしれませんが、結婚した時期も、子供が生まれた時期も、そして、離婚した時期も・・・。」
『そうなんですね。まぁ、ウマが合う三人組みでいいじゃないですか。』
「ここに来るのも、三人でって決めてるんです。」
『飲むカクテルも、いつも同じ物ですね。』
「そうそう、好みも一緒なんです。何か変ですよね。」
『そ、そんなことないですよ。仲がいい証拠じゃないですか。』
「ですよね。」と会話が続いた後、少し間をおいて二人の女性からも声がした。
「今日は、来てよかったです。癒されました。」
「ホント、よかったね。母のことも心配だけど、来てよかったです。」
「また、三人で来ようね。マスター!今日は、これで帰ります!」と仕切り役の女性に声が変わった。
『ありがとうございます。またお待ちしてますよ。』と返事をして、外まで見送りをした。そして、カウンターの中に戻り、空のグラスを下げ、いつもの常連さんの前に行った。

「女性三人組のパワーはすごいね。お代わりの声も出せないぐらいでしたよ。」
『すみませんね。気付かなくて・・・。』
「いえいえ。ところで、今、ハイボールと同じように流行ってるのがあるって知ってる?」
『えぇ、何ですか?』
「“婚カツ・パーティー”ですよ。」
『ほう、それは参加しないと。でも、あなたにはパワーが足りないからね。』
「そ、そんな・・・。」
『自己アピールするには、パワーがないとね。』
「そ、そうか。さっきの三人にパワーを分けてもらえばよかった・・・。」
『ホント。そのとおり!』
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