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ハネムーン“ぷらざ9月号”

ハネムーン写真.JPG
カウンター角の席から氷の鳴る音がした。
『お代わりしようか?』
「じゃぁ、もう一杯飲もうかな…。」といつもの常連さんが、少々疲れた様子で声を出した。
『はい。どうぞ!ハイボール!』とお代わりを空のグラスと取り替えた。
『どうしたの?元気がないね。』
「夏バテですよ・・・。」
『それだけ?』
「何を聞きたいの。いつもと一緒です。まだ、彼女も出来てませんよ!それらしき人も見つかりません!」
『わ、わかりましたよ。もう、聞きません!』と常連さんに返したところで、
扉の開く音が聞こえた。

『いらっしゃいませ!』と入口の方へ声をかけた。
「こんばんは。」と声を出しながら女性とその後ろから男性が入ってきた。

ほぼ一月に1度はお見えになるお客様で、やさしそうなご主人とそのやさしさに最大限甘えてらっしゃる12歳年下の奥様の二人である。席をご案内し、オシボリを渡し、二人の前にコースターを置いた。

「マスター。聞いてくれる?」
『はい。何でしょう?』
「ここに来る時は、いつも車の中で喧嘩になるんですよ。」
『そうですか!喧嘩するようには見えませんよ。』
「それがね。帰りは、どっちが運転するかって、いつももめるんです。」
『で、今日はどちらが?』
「主人が運転手で、私が飲みます!」
『前回もそうだったような気がしますが?』
「いつも、僕が運転手なんですよ。」とご主人から声がした。
「そんなことないです!この前、久留米に行った時は、私が運転したじゃない!」と、すかさず奥様から声が帰ってきた。
『まぁ、まぁ。もめるのは車の中だけで・・・。ところで、何にしましょうか?』
「あら、ごめんなさい。注文もしないで・・・。」
「僕は、ソフトドリンクで。」
「私は、ショートカクテルをお願いします。」
『かしこまりました。』
と声を返し、バック棚を見わたした。そして、カルバドス(アップル・ブランデー)とベネディクティンとオレンジキュラソーを取り出しカウンターの上に置いた。レモンを1個絞りその横に並べた。
シェーカーを取り出し、材料を入れ、氷を加えて素早くシェイクし、冷しておいたカクテルグラスに静かに注いだ。そのカクテルを奥様の前のコースターの上に運んだ。ご主人には、氷を入れたグラスにライムを搾り入れ、ジンジャーエール満たし軽くステアしてお出しした。
『はい。どうぞ、お待たせいたしました。』
お二人は、それぞれグラスを持ちカチッと音を鳴らして、一口飲んでコースターの上に戻した。
「ちょっと強いけど、甘酸っぱくて美味しい。」と奥様の方から声が聞こえた。
『“ハネムーン”という名前のカクテルなんですよ。』
「ハネムーンですか!新婚じゃないのに?」
『仲のいいご夫婦じゃないですか。まだまだ新婚さんのように見えますよ。』
「そうですか。」
『いつも、羨ましいと思っていました。』と言ったあと、ご主人から声がした。
「妻は、ここに来るのが楽しみなんですよ。車の中では、もめますけどね・・・。」

奥様は、笑みを浮かべながらカクテルをまた口に運んでいた。そのカクテルが空いたのと同時に、ご主人が、また口を動かした。
「マスター。そろそろ帰ります。また、来月お邪魔します。」
『ありがとうございます。お気を付けてお帰り下さい。』とお二人を扉の外まで見送りをした。
カウンターに戻り、空のグラスを片付け、常連さんの前に行った。

「マスター!お代わり!」
『おやおや。元気になったみたいだね。』と声をかけながら、空のグラスを下げた。そして、ハイボールを二杯つくり、一つは常連さんの前に運んだ。
「マスターも飲むの!」
『いいじゃないですか!あなたの将来に乾杯するんですよ。』
「僕ね、決めましたよ。あのご夫婦を見てて・・・。」
『何を決めたんですか?』
「一回りぐらい年下の妻が、いつまでも甘えていられるような、そんな夫になることをです!」
『えぇ!甘えん坊はあなたでしょ!』
「ちゃんと見つけて、そうなります! その時は、カクテルをおごってよ!」
『わ、わかりました。約束しましょう!』
「ヨシッ!」
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