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ブルームーン“ぷらざ2月号”

ブルームーン写真.JPG
2009年が終わり、新しい年になってひと月が過ぎた。いつもの常連さんは、相変わらず同じ席でハイボールを飲んでいる。しかし、今までと一つだけ違うものがある。それは、その常連さんに同級生の彼女が出来たらしい事だ。
「マスター!ハイボールお代わり!」
『はい、はい。分かりましたよ。そんなに大声を出さなくても・・・。』
いつになく元気な常連さんにちょっと釘を刺して、お代わりのハイボールをつくり空のグラスと取り替えた。
『はい。どうぞ。』
「あ、ありがとうございます。」
『今年は、いい年になるんじゃないの。元気な顔を見てるとそんな感じがするよ。』
「でしょう!」と会話が弾んでいる時に扉が開く音がした。

『いらっしゃいませ!』と入口のほうへ声をかけた。
「こんばんは!二人ですけどいいですか?」と女性のお客様が入って来られた。
『どうぞ、こちらの方へ』とカウンターの左隅を案内した。そして、お二人にオシボリを渡し、コースターを前に置いた。
「“BAR”という看板に引かれて入って来たんですけど、カクテルも飲めるんですよね・・・。」と一人の女性から声がした。
『はい。カクテルはメニューがございますよ。』と答えて、二人の間にメニューを置いた。
「こんなにたくさんあるんですね。何を注文したらいいか全然わからないです。」
『好みなどをおっしゃっていただければ、こちらで選んでおつくりすることもできますが・・・。』
「これなんかいいんじゃない!ジンベースの・・・。」
「ほんと!ステキな名前ね。これにしようか。」
『お決まりですか。』
「このジンベースの“ブルームーン”を二つ下さい。」
『かしこまりました。ブルームーンを二杯ですね。』と返事をして、バック棚からバイオレットのリキュールを取り出し、冷凍庫からジンを出してカウンターの上に並べた。それからレモンを1個搾ってその横に置いた。
いつもよりは大きいシェーカーを取り、二人分ずつの材料を中に入れた。
冷して置いたカクテルグラスを二つカウンターの上に並べ、シェーカーの中に氷を入れ、ストレーナー、トップを重ねてすばやくシェイクする。
いつもの常連さんの空のグラスの音を消すように、店内にシェイキングの透き通るような音が響き渡った。
そして、そのシェーカーから二つのグラスに均等に注ぎ分けられたカクテルを女性の前のコースターの上に静かに運んだ。
『はい。どうぞ。“ブルームーン”です。』
「うわぁ!キレイな色!それに花の香りがするし・・・。」
「美味しい!」
「ホント・・・。」と二人から声が聞こえた後、常連さんの空になったグラスを下げて新しいハイボールをつくって運んだ。
『すみませんね。ほったらかして・・・。』
「もう、慣れてますよ。ところで、あんなに若い女性が二人でご来店とは、珍しいですね。」
『ホントですね。』と返事をして、女性のほうへ戻った。

「ブルームーンってステキな名前ですね。」と女性から声がした。
『先月は、満月が2回あったのをご存知ですか?』
「えっ、1月ですか。」と二人、首を傾げながら顔を見合わせていた。
『月に2回満月が見れることはとても珍しいことで、その2回目の満月を“ブルームーン”と言うんですよ。』
『そのブルームーン(2度目の満月)に願い事をお祈りすれば叶うと言われているんですよ。』
「ホントですか!へぇ~、マスターって、ものしりですねぇ。」
「願い事、お祈りしたかった。ねぇ・・・。」
『私が知っているのは、お酒のことだけですよ。』
「私たち成人したばっかりで、今日はBARデビューなんです。なんだか大人になった気がしました。ねぇ。」
「そうねぇ。今日はこの一杯で帰りますけど、また、来てもいいですか?」
『はい。またお待ちしております。ありがとうございました。』と扉の外まで見送りをした。

「マスター!」とお決まりのごとく常連さんから声がした。
『はい。なんでしょう。』
「ブルームーンって神秘的だね。」
『ホントですよ。あなたに彼女が出来たのと同じぐらい神秘的だね。』
「そうなの?」
『月に2回来る満月のことだけど、言い換えると“珍しい出来事”という意味なんだって。』
「二十歳の女性二人も、この店には珍しいよねぇ。」
『まぁ、それもだけど、あなたが彼女を連れて来ることが、今年一番の珍しい出来事になると思うよ。』
「ちょっと、大袈裟じゃない!」
『最終回なんです。次回で・・・。』
「えっ、そうなんですか!」
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