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はじめてのBAR

秋から冬へと季節は変わろうとしている。
今年最初の灯油の買出しに行き、倉庫に片付けていたファンヒーターを引っ張り出してピカピカ磨いた。
19時の開店と同時にヒーターのスイッチを入れ、店内はちょうどいいくらいに暖まっていた。

ギィーと重い扉の開く音に反応し入り口に体を向けた。
「いらっしゃいませ!」
『こんばんは・・・。』と女性から声がし、その後ろから二人の男性が一緒に入って来た。
『マスター!こんばんは!』
「おやおや、この時間に珍しいじゃないですか。それに3人というのも・・・。」
『まぁ、こう言う日もありますよ。』と、いつもの常連さんが、いつもの角の席に座り二人もその横に座った。

「初めまして。」と最初に女性からオシボリを渡し、コースターを三人の前に置いた。
『暖かい・・・。』と女性から声がした後、もう一人の男性からも声が聞こえた。
『スゴイ。大人の店ですね。先輩!』
『マスター。この二人は僕の後輩で、“BAR”に来るのは初めてなんですよ。だから色々と教えてやってください。』
「はい。かしこまりました。あなたも一緒に・・・ですね。(笑)」
『ぼ、僕もですか?』
「当たり前じゃないですか!ちょうどいい機会ですからね。」
『じゃ、よろしくお願いします。』と常連さんの言葉のあとを追いかけるように二人からも声がした。
『私、この店のこと聞いてはいたんですけど、敷居が高くて・・・。でも、来れてうれしいです。よろしくお願いします。』
『お、俺は、居酒屋しか行ったことが無くて、酒のことはほとんど分かりません。というか、あんまり興味が無くて・・・。』
「まぁ、最初はそんなモンですよ。これから“お酒の楽しさ”“BARの良さ”を感じていただければいいと思います。」といって、二人の前にメニューを出した。

「さて、最初は何にしましょうか?」
『マスター。僕はいつもの・・・。』と常連さんから声がし、すかさず、もう一人の男性から声がした。
『先輩、カッコいいじゃないですか!どれぐらい通うと“いつもの”って言えるようになるんですか?』
『そんな話しはまだ後からだよ。』とすぐさま常連さんが返した。
『俺、メニュー見ても全然分からないし・・・。』
『私も・・・。』

「じゃぁ、先ずは“いつもの”を三杯つくりましょう。」と答えて、常連さんがいつも飲んでいる“ハイボール”をつくり、それぞれのコースターの上に運んだ。
「はい。どうぞハイボールです。」

『どうだい、僕がいつも飲んでいる。“ハイボール”は?』
『先輩、美味いスね。しっかり味があるし、何か“大人のハイボール”って感じがするね。』
『私には、ちょっと強すぎるみたい。でもこの清涼感は嫌いじゃないですよ。』
『せ、先輩、ハイボールって何ですか?』
『それはね。ウイスキーのソーダ(炭酸)割りのことだよ。ね、マスター。』

「はい。その通りです。いつも飲んでるだけあって分かってますね。でも、少し付け足せば、一般的にはウイスキーのソーダ割りのことですが、ベースはウイスキーじゃなくてもいいですよ。それにソーダもジンジャーエールやコーラのような炭酸飲料ならOKです。」
『へぇ、そうなんだ。』と男性から声がした。
そして、しばらくした後、三人はハイボールを飲み干し、女性がメニューを見ながら話しかけてきた。
『あのう、メニューに“ショートドリンクス”“ロングドリンクス”ってあるのは、どう違うんですか?』
「いい質問ですね。あなた方の先輩からはなかった質問ですよ。」
『ちょっと、マスター!僕には、メニューなんか出した事がないじゃないですか!』
「そうでしたっけ・・・。」
『先輩、それってグラスの大きさじゃないですか。』
『おお、そうかも・・・。で、何ですか?マスター。』

「お答えしましょう。その前に、お代わりをしましょうか?難しく考えなくてもいいんですよ。好みをお聞きしましょう。」
『じゃぁ、私は、サッパリしてて、さっきのみたいに炭酸が入ったのがいいです。』
『俺は、甘くて、強くてもいいよ。』
『僕は、同じ物を・・・。』
『先輩!違うのを飲んで下さいよ。』
『僕は、ハイボールが好きなの!』

「はい。では皆さんに、二杯目をおつくりしましょう。」と言ってバック棚を見渡した。
冷凍庫からウオッカを出しカウンターの上に置いた。バック棚からはブランデーとカカオのリキュール、そして、アードベッグ10年(シングルモルトスコッチウイスキー)を取り出し、同じ様にカウンターの上に並べた。

女性には、ロングドリンク、男性にはショートドリンク、いつもの常連さんには、違うウイスキーでハイボールをつくることにした。
まず、冷蔵庫から冷しておいたタンブラーを出し、その中に8分の1にカットしたライムを潰しながら入れ、氷を加え、ウオッカを注ぎトニックウォーターを満たして軽くステアしたら出来上がりだ。
それを女性のコースターの上に運んだ。

次に、シェーカーを取り出し、その中にブランデーとカカオ(ブラウン)のリキュールを入れ、冷蔵庫から生クリームを出して加えた。シェーカーに氷を入れ、少し長めにシェイクし冷しておいたカクテルグラスに注ぎ、男性のコースターの上に運んだ。
そして、冷蔵庫から出したタンブラーに大き目の氷を2個入れ、そこにアードベッグ10年を注ぎソーダを満たし軽くステアして、いつもの常連さんの空のグラスと入れ替えた。

「はい、どうぞ。ウオッカ・トニックとアレキサンダー、そしてアードベッグのハイボールです。」とそれぞれの飲み物を指して答えた。
『私のは、ウオッカ・トニック。サッパリしてて美味しい。』
『俺のだけ、量が少ないなぁ・・・。』と呟き、一口飲んでまた声がした。
『お、おぅ。美味い!けど強いですよ。先輩は、またハイボールですね。』
『だから、ハイボールが好きなの!』と答えて、一口飲んだ。
『な、何だこの香りと独特な味は?今まで飲んでいた物とは全然違う。でも、美味い。』

「どうですか。それぞれ美味しいでしょう。特に、そのハイボールは、私が大好きな物です。癖になりそうな味でしょ。」
『ホント、そんな感じがする。次から“いつもの”って言ったらこれにして下さい。』
「はい。かしこまりました。」

「ところで、質問の答えですが・・・。」
『マスター!美味いからもうどうでもいいよ。』
「そういう訳には行きませんよ。ちゃんと勉強してもらわないと・・・。」

「まず、ロングドリンクスとは、今お出しした“ウオッカ・トニック”と“ハイボール”のような飲み物の事です。氷が入っていて、長い時間楽しめるカクテルなんですよ。」
『長い時間ってどれくらいですか?』と女性からまた質問があった。
「いい突込みです!その時間は、氷が解けてしまわない内に飲んでしまう時間です。」
『そうなんだぁ。』
「次に、ショートドリンクスとは、“アレキサンダー”のようなカクテルグラスでお出しする氷が入らないもので、短い時間で飲んでしまうものなんですよ。」
「さて、短い時間ってどれ位の時間でしょう?」
『私のより、量が少ないから・・・。』
『俺には、分からないけど、すぐに無くなりそう。』
『で、マスター、答えは。』と最後に常連さんから声がした。

「はい。ではショートドリンクスは、冷えてよく混ざっているカクテルなんです。その冷えて混ざっている一番いい状態で飲んでしまう時間なんですよ。」
『そうか、強いからってチビチビ飲んでいると美味しくなくなるからですね。』
「その通りです。後輩さんたちは、理解が早いいい生徒さんですね。誰かと違って・・・。」

『もう、マスター!僕だって分かりましたよ。ハイボールにはもっと美味いものがあったってことが・・・。』
「そうですよ。同じ物でもベースを変えたり、カクテルも色々飲んでみることですね。そうしたら、自分の好みに合うものが見つかるはずです。バーテンダーはその案内役なんですよ。」

『俺、居酒屋も好きだけど、BARも好きになりました。カクテルも美味いけど、何か居心地がいいというか。空気がいい感じがする。』
『そうね。私も同じことを感じてました。そして、分かりやすく説明してくれたマスターの喋り方がいいと思いました。』
『おいおい、みんな、今日一日で分かるか。BARの良さが・・・。もっと通うと本当に分かるんだよ。』
「まぁまぁ、あなたもやっと分かったんでしょ! でも、今日だけでもBARの良さを感じてくれてよかったと思っています。」

『先輩、ありがとうございました。連れて来てくれて。』
『私も、常連になってもいいですか?』
「もちろんですよ。またのお越しを楽しみにしております。」
『マスター。今日はお世話になりました。また、よろしくお願いします。』
「こちらこそ、ありがとうございました。」

最後に、BARは食事をした後もう一軒行きたいと思ったときに選んで欲しいお店です。美味しい食事で満足されたお気持ちを更に高めて、その日が本当にいい一日となるための場所だと思っています。お酒はもちろん会話や非日常的な空間で癒されていただくために一生懸命お客様に尽くして行きたいと思っております。
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