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老舗(しにせ)のカクテル

もう4年ぐらい前だろうか。Jというお店をやっている友人のS氏とそこのスタッフのK君と私のお店のスタッフM君と4人で京都へ旅したことがある。
本来は昼間に滋賀県の黒壁を視察するという”研修旅行”が名目だったが、夜は京都泊まリだったので、BARを回ろうという事になった。(こっちが本当の研修旅行です!)視察も無事に終えてホテルに着き、食事を済ませて、早速、夜の京都の街へくりだした。  

最初に訪れたのが、中京区寺町通りのアーケードの途中に、すでに80年の歴史を誇る「サンボア」という老舗である。
カウンターには椅子が10席と4人掛けのテーブルがひとつあるだけの小さなBARである。
昭和初期の雰囲気を残す店内はいままで一度も改装をしていないそうだ。先代のマスターは、すでにお亡くなリになられていて、今は息子さんが後を継がれてる。  

私たち4人はカウンター席に座った。4人とも緊張しているのか言葉がでない。私がウイスキーのソーダ割りを下さいと戦陣を切ると、後に続くように3人が注文をした。
私も緊張していたせいか、S氏とM君が何を飲んだのか覚えていないが、K君が飲んだものはハッキリと覚えている。
それは、ピンク色をしたダイキリだった。ダイキリはホワイトラムにライムジュースと砂糖をシェークして作るのが一般的だが、ここのは砂糖の代わリにグレナデンシロップが使われているピンク色をしたダイキリである。
同じレシピで作るのに“バカルディ”というカクテルがあるが、これは裁判にまでなったと言うおもしろいエピソードがあり、その判決は「バカルディ社のホワイトラムを使わないと“バカルディ”とは言わない」というものである。

しかし、ここのBARではバカルディではなくて“ダイキリ”なのである。
昭和30年代の古いカクテルブックを見ると、ダイキリはグレナデンシロッブを使い「夕日に輝くカリブ海を現わしている」と書かれているのがあったが、時代の流れとともにバカルディが有名になるにつれ、ダイキリは白いものとして定着してしまったのであろう。

何れにせよ、80年続く老舗のBARだから飲めるピンク色のダイキリに感動をしてしまった。

次に訪れたのが祇園で昭和47年に開店した老舗の「はなふさ」という地下にあるBARだ。
現在は、店主と同じ名前の「吉原」(平成11年4月より)に変わっている。  

私たち4人は前の店と同じように、私の左隣にS氏、M君、K君とカウンター席に座り同じ順番で注文をした。
さっき迄の緊張感はなくマスターとも会話を交わしながら飲めるお店である。マスターの吉原さんは柳川市出身で私の友人の叔父さんなのだ。しばらくの間、佐賀に住む甥の話しに花が咲いていた。
このBARでも私はウイスキーのソーダ割りを注文し、友人のS氏は自家製のコーヒーリキュールを奨められて、“美味い”を繰り返し呟きながら飲んでいた。
S氏はコーヒーはまったく飲まない人なのだがアルコールが入ると飲めるみたいだ…。

私の店のスタッフM君はマルガリータをK君は、何やら透き通った簿いグリーンのカクテルを飲んでいた。

それは?と聞くと、なんと!“ギムレット?”だったのである。
それもステア(ミキシング・グラスで作られたもの)で作られていた。そう言えぱ、私も18年ぐらい前に同じようにして作っていたのを思い出した。その当時は生のライムが手に入りにくいという事情があったので、瓶詰めのライムジュース(甘酸っぱい、透き通った緑色をしたライム・シロップ)を使ってステアしていた。今ではほとんどがシェークして作るのが一般的なのであるが…。 この透き通った薄いグリーンのギムレットを見てもう一つ思い出したものがある。
それはレイモンド・チャンドラーの有名な「長い別れ」と言う小説だ。
その中には「本当のギムレットはジンとローズ社のライムジュース(ライム・シロップ)を半々混ぜるんだ」という行がある。

ここのBARもまた、こだわりをもってカクテルを作り続けているのだと、ちょっと興奮ぎみになり、また感激してしまった。

何時しかソーダ割りも2杯目になっていた。隣では、S氏のテンションが上がってきていた。

その筈である、いつの間にかコーヒーリキュールを3回もお代わりしていたのだ。京都の夜もこの2軒のBARで終わってしまい、明日は朝から京都観光なのだが、少々心配である。S氏のことが…。  

私たちが訪ねたBARは、とても素晴らしいお店でした。 
創業当時のままのレシピを守り続け、またスタイルを変えることなく歴史を積み重ねてきた「老舗のカクテル」。おそらくこれからもそのままであるだろうし、変わってほしくないと思う。
それがBARの個性であり、そしてまた、それを楽しみに足を運ぶお客様がいらっしゃるのだから…。
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